お嬢様、今宵は私の腕の中で。
「ひまり様。実は僕、もうすぐイギリスに戻るんです。母の実家がイギリスにあるので、この夏が終わったら家族で戻ります」
心臓を抉られたようだった。
「私は……九重と会えなくなっちゃうの?」
「いいえ」
力強い否定が返ってくる。
「でも、イギリスに行っちゃうんでしょ?」
「────来ませんか」
「え」
「僕と一緒に、イギリスに来ませんか、ひまり様」
あのときの衝撃は今でも忘れることはない。
「僕、お父さんに交渉します。ひまり様も連れていってもらえるように交渉しますから。だから、見ず知らずの男との婚約なんてやめて、僕にしませんか」
「……でも」
「好きです。僕はひまりのことが好き」
どこまでも真っ直ぐな告白だった。
ぽろぽろと涙が溢れ出す。