お嬢様、今宵は私の腕の中で。
その言葉を聞いた瞬間、安堵でふうっと息が洩れた。
なんだ。
てっきり一生会えなくなるのかと思った。
ぎゅっとしがみつくと、先程より強く抱きしめられた。
「お嬢様」
顔を上げると、柔らかな顔がそこにあった。
ドクン、と心臓が跳ねる。
これがなんなのか、わたしの答えはもう出ている。
「私がイタリアから帰ったら、全ての気持ちを伝えさせてください」
「イタリアから、帰ったら……?」
「けじめをつけて参りますので」
何かを決心するような九重は、青色の瞳でわたしをまっすぐに見つめた。
「お嬢様。私が帰ってくるまでに、私の名前を思い出してください。お嬢様ならきっと、できます」
「九重の、名前……」
「はい。お嬢様が全てを思い出した時、私は貴女に気持ちを伝えられる。ですから、どうか」