お嬢様、今宵は私の腕の中で。
*
「ここはこっちを先に通して……あっ。すず、そこは」
「痛っ」
ピリッと鋭い痛みを指に感じる。
反射的に布から手を離すと、向かいの席でため息がこぼれた。
「本当に不器用なのね。困ったものだわ」
「だから言ったじゃん。裁縫下手だって……」
「ここまでとは思っていなかったんだもの。ちょっと……いや、かなり困惑してる」
はあ、と深く息を吐くお姉ちゃん。
頭を抱えて唸るお姉ちゃんは、「指、大丈夫?」とそこでようやく問いかけてきた。
「これが大丈夫なように見えますか、おねーさま」
「……見えないけど、姉として一応よ。ていうか、ここまで出来ないとむしろもう才能ね」
「わたしも以前思ったことあるもん」
自分だってどうしたらいいのか分からないのだ。
だから少しでも練習しようと、姉を頼ったというのに。
ここまで呆れられては、もう頑張ることなど到底出来ない。