お嬢様、今宵は私の腕の中で。

「なら、もうやめる?」


そう問われて、ブンブンと首を振った。


「……駄目だよ。九重が日本に帰ってくるまでに上手になるって決めたんだから」

「宣言からもう1ヶ月経つんですけど?一向にうまくならないのはどうしてなの」


九重がイタリアに行ってから、今日でちょうど1ヶ月。

全然上手くならない裁縫にお姉ちゃんが焦るのも納得できる。


苦笑しながらお姉ちゃんはもう一度わたしに布を差し出した。


「でも、前向きな姿勢はいいところよ。さ、頑張りましょう」

「うん」


九重が帰ってきた時、何か一つでも変わったところを見せてあげたい。

その一心で、苦手な裁縫も頑張ってきた。


努力もむなしく、才能は一向に開花する兆しはないけれど。


それでも。


笑顔で頭を撫でて、褒めてもらいたいから。


もう一度布を受け取る。
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