お嬢様、今宵は私の腕の中で。
そりゃ、真面目にお稽古事に励んでいる他のお嬢様とは差ができるかもしれないけどさ。
そんな言われようなくない?
と思うけれど、口には出さない。
口喧嘩なんてしようものなら、ゆくゆくは家同士の争いになりかねないからだ。
棘のある言葉から意識を遠ざけるように、九重に問いかける。
「九重はこの学園に来るのは初めてなの?」
「はい。今までは海外の執事学校にいましたので、お嬢様は私が初めてお仕えするお嬢様です」
「そう、なんだ」
海外での勉強経験があるんだ、と素直に感心する。
日本はおろか、住んでいる県からも出たことがないわたしにとっては想像できない世界だ。
そしてなにより。
『お嬢様は私が初めてお仕えするお嬢様です』
その言葉に、なぜだか浮かれてしまうわたし。
だって、何事も初めてって嬉しいと思わない?
自然と口角があがるのを必死に抑える。