お嬢様、今宵は私の腕の中で。
「九重さんの名前ねー」
晶さんがうーん、と腕組みをして斜め上を見上げた。
「名前なんて沢山あるんだよ?ぴったり当てれるわけなくない?」
「それはそうなんだけど、いくつかヒントはもらってるの」
今まで集めてきた情報を言ってみる。
「ルナ、っていう名前に関係してるんだよね」
「そうだと思う。でも、それがよく分からなくて」
考え込んでいると、晶さんはスマホを取り出して誰かに電話をかけた。
「あ、もしもし雪乃?ちょっとあんたの力が必要だわ」
どうやら相手は雪乃さんのようだ。
晶さんは何やら操作し、雪乃さんの声が全体に聞こえるようにしてくれる。
「ルナって聞いたら、雪乃は何を想像する?」
『ルナ?』
しばらくの沈黙の後、『私の思いつく限りでは』と声が聞こえてくる。
一言一句逃さないように、スマホに耳を近づけた。
『ローマ神話に出てくる月の女神の名前かな。ルーナ、っていうんだけど、日本では長母音を省略してルナ、って言うこともあるの。聞いたことない?』