お嬢様、今宵は私の腕の中で。

そこにいたのは、桜のよく似合う人。

わたしの大好きな人だった。


「────鈴月(りつき)さん!」


さらさらとあたたかい春風が、彼の髪を揺らす。

わたしの声に振り返った九重────いや、鈴月さんは。


わたしの姿をその瞳に映すと、ゆっくりとその目を細めた。

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