お嬢様、今宵は私の腕の中で。
「お嬢様。ニヤけてますよ」
けれど、この男にはすぐに見破られてしまった。
「べっ、別に?ニヤけてないし。変な言い方しないでよね」
「そうですか。てっきり、『初めてのお嬢様』ということに喜んでおられるのかと」
「違う……!」
ぶんぶんと首を振って否定する。
九重は、にやりと怪しげな笑みを口許に浮かべ「違いましたか。残念」と呟いた。
向けられる瞳はまるで、図星だろ、と言っているようで、ブルーの瞳から視線を逸らす。
「そ、それより九重!教室に行こっ」
顔を見ることなく駆け出す。
九重は余裕そうにすぐさま追いついて、わたしの後ろを歩き出した。
「今日は何のお稽古なのですか」
「裁縫……」
答えながら、どんよりと気分が落ち込む。
何度練習しても、いつもどこかしら怪我するので、裁縫はあまり好きではない。