お嬢様、今宵は私の腕の中で。
お嬢様、今宵は私の腕の中で。
「旦那様……いいえ、お義父様。すずお嬢様を私にください」
目を見開くお父様の横で、お母様がにこにこと笑みを浮かべている。
しばらく呆然としていたお父様は、急に我に返って腕を組んだ。
「すずにはこの家を継いでもらわねばならん。故に次の見合いも入っている」
そんな。
やっぱり許してくれないの?
唇を噛んで俯いたその時だった。
「……と言いたいところだが、実はひまりから話があってな」
「え……お姉ちゃんから」
「すずと九重には苦しい思いをたくさんさせたから、すずには自由になってほしい。家を継ぐのは私でいいとのことだ」
顔を上げると、穏やかな笑みが降ってくる。
それは、久しぶりに見るお父様の笑顔だった。
「確かに家を繁栄させていくのは大事だ。でも、それ以上に大切なものを見つけたよ。今まですまなかった」
「私からも、ごめんね。すずちゃん」
揃って頭を下げられて、どうしたらいいか分からなくなる。
「顔を上げてください、お父様、お母様」
慌てて言うと、ゆっくりと顔を上げた両親の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「……すず。幸せになるんだぞ」
「いつでもすずちゃんの味方だからね」
お母様にぎゅっと抱きしめられる。
その上からお父様もわたしたちを優しく包み込んだ。
「九重。すずをよろしく頼んだぞ」
「承知致しました。一生愛し抜くとここに誓います」
そんな言葉が耳に届く。
わたしは家族のあたたかさを感じながら、お母様の背中に手を回した。