お嬢様、今宵は私の腕の中で。



コンコンコン、とノックの後にガチャリとドアが開いた。


「お待たせしました、お嬢様」



お風呂上がりで色気が大渋滞の鈴月さんは、部屋に入ってくるなりわたしの身体をひょいと抱き上げた。


「わっ……」


鼻をつくシャンプーの香り。

見れば、漆黒の髪は毛先が少しだけ濡れている。


優しくベッドにおろされて、艶やかな笑みが降ってきた。


「愛しています、お嬢様」


まっすぐに気持ちをぶつけられて、鼓動が速くなっていく。


鈴月さんはわたしの耳にそっと唇を落とした。

ふうっと熱い息を吹きかけられ、身体が跳ねる。


「可愛い」


そのままの熱が、今度は唇に落とされた。

角度を変えて、だんだん深くなる口づけ。


「ま、まって……」


唇の隙間からなんとか声を出すと、鈴月さんはゆっくりと唇を離した。

細められた切長の瞳が、まっすぐにわたしを見ている。


「言いましたでしょう。お嬢様が私の名前を当てた暁には、初めてを頂戴すると」

「それは、そうだけど……っ」

「もう離しません。二度と逃したりしない」


再び唇を押しつけられて、身体の力が抜けていく。

嫌悪感はまったくなかった。

あるのは、未知への恐怖と、わずかな期待。

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