お嬢様、今宵は私の腕の中で。
*
コンコンコン、とノックの後にガチャリとドアが開いた。
「お待たせしました、お嬢様」
お風呂上がりで色気が大渋滞の鈴月さんは、部屋に入ってくるなりわたしの身体をひょいと抱き上げた。
「わっ……」
鼻をつくシャンプーの香り。
見れば、漆黒の髪は毛先が少しだけ濡れている。
優しくベッドにおろされて、艶やかな笑みが降ってきた。
「愛しています、お嬢様」
まっすぐに気持ちをぶつけられて、鼓動が速くなっていく。
鈴月さんはわたしの耳にそっと唇を落とした。
ふうっと熱い息を吹きかけられ、身体が跳ねる。
「可愛い」
そのままの熱が、今度は唇に落とされた。
角度を変えて、だんだん深くなる口づけ。
「ま、まって……」
唇の隙間からなんとか声を出すと、鈴月さんはゆっくりと唇を離した。
細められた切長の瞳が、まっすぐにわたしを見ている。
「言いましたでしょう。お嬢様が私の名前を当てた暁には、初めてを頂戴すると」
「それは、そうだけど……っ」
「もう離しません。二度と逃したりしない」
再び唇を押しつけられて、身体の力が抜けていく。
嫌悪感はまったくなかった。
あるのは、未知への恐怖と、わずかな期待。