お嬢様、今宵は私の腕の中で。
「これを、受け取ってくださいますか」
答えは、決まっている。
「もちろん」
差し出された薔薇を受け取ると、鈴月さんは目尻を緩めておだやかな笑みを浮かべた。
月明かりに照らされて、鈴月さんの顔がいっそう美しく見える。
「貴女は私の唯一無二です。ずっと、そばにいてください」
「いるよ。ずっとそばに」
優しく抱きしめられて、素直に身体を預ける。
「愛してる」
「────わたしも」
一音一音を大切に紡ぐ。
「わたしも、鈴月さんを愛してる。
……つきくんも、九重も、鈴月さんも、どんなときも貴方は、わたしにとっての特別なの」
「まったく……そういうところ」
ふっと唇が寄せられた。
それはわずかなぬくもりをわたしに与えて、すぐに離れていった。
「大好き」
わたしたちの声が重なると同時に、また二つの影が重なった。
夜桜がほのかな香りとともに、花びらをひらひらと舞い散らせる。
光り輝く月は、ただ静かに、2人を照らし続けていた。