お嬢様、今宵は私の腕の中で。

わたしは花が好き。


それと同じくらい、木の葉や紅葉も好き。


植物はいつだって心を癒やしてくれるし、ときには人工ではつくりだせない美しさで圧倒させてくれる。



「綺麗……」

「お嬢様、参りましょう」



歩きながら空を見上げると、澄んだ秋晴れの空と紅葉が視界いっぱいに広がった。


すうっと大きく息を吸い込んで、ゆっくりと落ち葉を踏みしめる。



「今だけは、全て忘れてこの景色を楽しんでいただきたいのです。どうか笑ってください、お嬢様」



ああ、そうか。


九重は、わたしを元気づけるために、わたしをここに連れてきてくれたのだ。


そのことに気づいて、じんわりと心があたたかくなる。



「ふふっ」

「よかった。ようやく笑ってくれましたね」



笑みを洩らすと、安堵したように九重の顔が、今までで1番柔らかくほころんだ。


どっくん。


高鳴る胸に手を当てて、歩を進める。

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