お嬢様、今宵は私の腕の中で。
九重は、肩が触れそうな距離で、わたしのとなりに並んだ。
「特別ですよ、お嬢様」
「分かってる!ありがとう、九重」
となりに人がいるって、こんなに嬉しいことなんだ。
お父様とお母様と並んで歩くことなんて片手で数えられるほどしかないし、それも小さい時のうっすらとした記憶だけ。
だから、今わたし、ものすごく嬉しい。
「九重、見て見て!紅葉が舞ってる……うわっ」
足元に注意せず上だけ見ながら走り出したわたしは、小石につまずいて前のめりになった。
落ち葉で紅に染まった地面が迫ってきて、ぎゅっと固く目を閉じる。
けれど、痛みを感じる前に、パッと左手が掴まれた。
そのまま腕を引かれ、あっというまに視界が真っ暗になる。
……これっていわゆる既視感?
ということは。
「大丈夫ですか、お嬢様」
「う、うん……」
わたしがいたのは、九重の腕の中。
また速まりだす鼓動は、容赦なくそのスピードを上げていく。
「危ないですよ。せっかくのお顔が傷付いたら困ります。もう少し慎重に」
「ご、ごめん……」
そうつぶやくいたところで、身体が離された。
けれど。
「九重……手」
「これも護衛です。お嬢様は危なっかしいので」
身体が離れてもなお、左手は繋がれたまま。
触れた指先から九重のぬくもりが伝わってきて、なんだかとても不思議な気分になる。