お嬢様、今宵は私の腕の中で。

……護衛、って。


わたし、16年間生きてきて、異性と手を繋いだことないんだよ?


そんなわたしが、九重と手を繋いで平然としていられるわけがなかった。


わたしの顔を、九重が覗き込んでくる。


そして、その表情を見るや否や、意地悪く口角を上げた。



「照れているのですか。お可愛いですね」

「……ち、違います!手を繋ぐことが、いったいなんだって言うんですか!」

「いいえ。なんでもありませんよ」



精一杯見栄を張ったのに、返ってきたのは余裕のある優雅な微笑みだけだった。


だって、九重は大人だもんね。


それに、見た目はイケメンなんだもん。


そりゃ、"そういう"経験豊富なんだったら、手を繋ぐことぐらい、なんでもないのかもしれないけど。


でも、わたしにとっては違う。


どくどくと鼓動がうるさくて、破裂しそうになっている。



「お嬢様、顔、赤いですけど」

「ちょ、ちょっと暑いだけっ」

「へえ……秋なのにですか?」

「き、着込んでるから、しょうがないでしょ!」



にやりと薄い笑いを浮かべる九重は、静かに紅葉を見上げた。



「綺麗ですね」



秋の涼しい風が、九重の黒髪をさらうように揺らす。


透き通る紺青の瞳から伸びる長い睫毛。


スッと通った鼻筋と、すっきりと引き締まったフェイスライン。


ニキビと日焼け知らずの、陶器のように白い肌。



悔しいけど、どのパーツも息を呑むほど綺麗だし、配置も整ってるなぁ……。



「どうされました?」



ふいに、九重が上げていた視線をずらして、わたしを見た。


流れた碧眼がまっすぐに私を見つめる。

< 55 / 321 >

この作品をシェア

pagetop