お嬢様、今宵は私の腕の中で。
……護衛、って。
わたし、16年間生きてきて、異性と手を繋いだことないんだよ?
そんなわたしが、九重と手を繋いで平然としていられるわけがなかった。
わたしの顔を、九重が覗き込んでくる。
そして、その表情を見るや否や、意地悪く口角を上げた。
「照れているのですか。お可愛いですね」
「……ち、違います!手を繋ぐことが、いったいなんだって言うんですか!」
「いいえ。なんでもありませんよ」
精一杯見栄を張ったのに、返ってきたのは余裕のある優雅な微笑みだけだった。
だって、九重は大人だもんね。
それに、見た目はイケメンなんだもん。
そりゃ、"そういう"経験豊富なんだったら、手を繋ぐことぐらい、なんでもないのかもしれないけど。
でも、わたしにとっては違う。
どくどくと鼓動がうるさくて、破裂しそうになっている。
「お嬢様、顔、赤いですけど」
「ちょ、ちょっと暑いだけっ」
「へえ……秋なのにですか?」
「き、着込んでるから、しょうがないでしょ!」
にやりと薄い笑いを浮かべる九重は、静かに紅葉を見上げた。
「綺麗ですね」
秋の涼しい風が、九重の黒髪をさらうように揺らす。
透き通る紺青の瞳から伸びる長い睫毛。
スッと通った鼻筋と、すっきりと引き締まったフェイスライン。
ニキビと日焼け知らずの、陶器のように白い肌。
悔しいけど、どのパーツも息を呑むほど綺麗だし、配置も整ってるなぁ……。
「どうされました?」
ふいに、九重が上げていた視線をずらして、わたしを見た。
流れた碧眼がまっすぐに私を見つめる。