お嬢様、今宵は私の腕の中で。
肩をすくめると、「いいえ!」と力強い否定が返ってくる。
「貴女様になら、この2匹を大切にしていただけると思いまして。驚くことに、2匹ともすごく、懐いていますし」
そう言って、女性はばっと頭を下げた。
「どうか、引き取っていただけないでしょうか」
「えっ、と」
困って視線を九重に向けると、九重はなにやら思い詰めた表情をしていた。
「九重……?」
「……」
「ねえ、九重ってば」
そこでようやく我に返ったようにハッとする九重は、取り繕うようにぎこちない笑みを浮かべる。
「い、いいんじゃないですか。こう言われていることですし。お嬢様も飼いたいとおっしゃっていたではありませんか」
やけに早口で言った九重は、それきり口をつぐんでわたしたちに背を向けた。
「本当ですか」
「まあ……はい。野良猫であれば、連れて帰るつもりでした」
「では」
「分かりました。わたしでよければ、引き取ります」
うなずくと、花が咲いたように笑って、女性はもう一度深くお辞儀をした。
「ありがとうございます。本当に助かります」
「いいえ。もともと動物は好きですし」
軽く首を振ると、女性は顔を上げてわたしをじっと見つめた。
「……どうされました?」
「いいえ。なんでもございません」
ふるふると首を振って、女性は紅葉を踏み締めながら去っていった。