お嬢様、今宵は私の腕の中で。
「お嬢様」
「ん?」
「行きましょうか」
片眉を上げて、にやりと怪しげに微笑む九重。
まるでこれから悪い事をする子供のような、そんな表情を浮かべる九重は、運転手にこそこそと耳打ちする。
運転手は一度目を見張って、それから「かしこまりました」とハンドルを握った。
「ねえ、九重。いったいどこに行くの?」
「にゃー」
もふもふと撫で心地抜群の毛を撫でつつ問いかける。
運転席のところから戻ってきた九重は、再びそばに寄ってきた黒猫を抱き上げて、わたしに艶っぽい瞳を向けた。
「お嬢様が行きたいとおっしゃったところです」
「え、どこ」
全く心当たりがなくて、こてんと首を傾げてみせると。
九重は、それはそれは綺麗な微笑をたたえた。
「──"ファミレス"に決まっておりましょう?」