私の彼氏は幽霊になった。

行動開始



「夕夏ー?おはよ」



トントン、と肩をたたかれて我に返った。



「あ、おはよう」

「もう、またボーっとしてんじゃん。昨日は大丈夫だった?急いでたけど」

「あー...うん。大丈夫。昨日ごめんね」



あの後、必死に優斗を探した。


でも結局会えなかったし、もはやあれが優斗だったのかも分からない。



「全然!また遊びに行こうよ。今度は陽抜きでっ」

「ふふ、またそんなこと言って」



あーあ。怖いなぁ。今度はせめてお別れを言ってからにしたいのに。



「あ、陽だ。おはよー」

「...おおっ!おはよ。そうだ、お前先生が呼んでたよ」

「えっ怖。ありがと了解、行ってくる」



杏珠が教室から出ていく後ろ姿を見つめていると、その沈黙を陽が破った。



「おはよう。元気か...?」

「うーん、正直あんまり」

「だよな...夕夏、もし何かあったら俺に相談しろよ」

「え、なにそれ」



ふざけてるのかと思ったけど、陽の顔を見るとやけに真剣だ。

見慣れない顔に少しどきっとする。



「ふふ、分かった。ありがとう」

「よし!じゃあ今日の放課後は空いてる?」








その日からというもの、陽といることが凄く増えた。


困っていると駆けつけて助けてくれたり、よく私の気分が晴れるように色々なところに誘ってくれたりした。


そのおかげで私は、少しづつ優斗のことで落ち込む時間が減っていった。





「ねえ夕夏、もしかして陽と付き合ってるの?」


そして最近、こんな質問を周囲によくされる。


「そんな訳ないよ」


と返しても、


「ええ~怪しい~」


とこの調子だ。



クラスの女子が離れていってすぐ、杏珠がニヤニヤしながら私の前に座る。



「なんか最近大変ねぇ」

「きっと面白がってるんだよ」



そう言うと杏珠が急に身を乗り出して、控えめな声で尋ねてくる。



「...ねえ、本当に陽には興味ない?」

「もう杏珠まで?やめてよ、だって私たちは友達...」「友達でもさ、」

「友達からの恋だってあり得るよ?新しい恋も考えてみて。あんたは今フリーなわけだし」



...そっか。私今フリーなのか。


だからあんなに、みんな騒いでるんだ。新しい恋の噂を聞きつけて。


でもさ、死んだら強制的にお別れなの?まだ優斗は、この世にいるかもしれないのに。



「そういえば、今日で優斗が亡くなってから49日目か」



そんな杏珠の呟きに、ハッと息を吞んだ。


脳裏に浮かんだのは、いつかの会話。






「ねえ二人とも。幽霊って、急にいなくなるものなのかなぁ」

「なに、夏の風物詩? 」

「まぁ、そりゃ成仏とかしたら消えるだろうな」

「あ、あと49日したらこの世から旅立つって話も有名じゃない?」






だめだやっぱり、優斗を探さないと。



ガタンッ



「ちょ、夕夏どこに行くの!?」








杏珠の声が遠のいていって、もう聞こえない。


人の流れに逆らって走る私の足。



このまま別れるなんて、そんなの絶対後悔する。


そうだ、考えてみればおかしい。


あんなに優しい優斗が私に何も言わないでいなくなるなんて、きっと何かあるはず。








ドンッッ


無我夢中で走っていたら突然何かとぶつかって、気づくと地面に倒れこんでいた。



「いった....」

「すいません!...って夕夏!?なにしてんのこんな時間にっ」



顔を上げると、そこには驚いた顔の陽。



「えっと...人を探しに」

「人?誰?」

「...優斗が事故にあってから今日で49日なの。優斗と会うチャンスは今日までしかないかもって」



馬鹿だな私、こんな正直に話しても変なこと言ってるとしか思われないのに。


優斗が戻ってきてたことを陽は知らないんだから。



「っごめん、とにかく急いでるか...」「俺も探す」

「...え?」



想定外な陽の言葉に思考が停止する。



「いいから。俺も探す。その方が見つかるかもしれないだろ」

「で、でも」

「だーもう!つべこべ言うな!行くぞ!急いでるんだろっ」



固まった私の腕を引っ張って、陽が走り出す。


私一人で走っていた時よりも遥かに速く。


ありがとう、風を切る陽の後ろ姿にそう呟いた。








探し始めてどれくらい経っただろうか。


気づけば空が暗くなってきていた。


辺りがオレンジ色に染まる中、優斗の姿はない。



「くっそ...間に合わなかったか...」

「はぁ...ねえどういうこと?、間に合わなかったって」



ここは丘の上にある公園だ。


陽が公園を探そうと言い出し、ここに辿り着いた。



「あいつ、言ってたんだよ。成仏する時は思い出の公園でって。丘の上から見る景色が絶景だからって」

「そんな話したことあったの...?なにそれ、この辺りなんて丘の上に公園たくさんあるのに...」



そう、沢山あり過ぎて、だから優斗が言っている公園がどれかを見つけるまでに時間がかかってしまった。






「なぁ。優斗とこの話したのって、事故の前だと思ってるだろ」





息を整えた陽が、ゆっくり振り向く。









「夕夏が用事を思い出して走って帰った日、俺の家に優斗が来たんだ」







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