私の彼氏は幽霊になった。
告白
「夕夏が用事を思い出して走って帰った日、俺の家に優斗が来たんだ」
突然、周りの音が小さくなった気がした。
「え、どういうこと...?」
「あの日、家に帰ったら玄関で優斗が待ってた。最初は幻だと思ったし、がちでびびった」
「その時に色々聞いたんだ。夕夏のことも、自分が消えるまで時間がないことも」
言葉が出ない。
「それで頼まれたんだ。夕夏を守ってくれって。俺のせいできっと辛い思いをさせるからって」
そっか、だから相談に乗るって言ってくれてたんだ。
でも待って、
「あの、さっきの間に合わなかったって...?」
「あぁ...夕方にあの公園でいなくなるって聞いてたのにもういなかったから...」
「じゃあ、優斗はもう...?」
顔が青ざめていくのが自分でもわかる。
どうしよう。ねえどうして。
悔しい。結局同じだ。
またろくにお礼も別れの言葉も言えなかった。
幽霊の状態でずっと一緒に居られるなんて、どうして思っちゃったんだろう。
どうして当たり前だと思ったの。
どうして会えてる時に、また次も会えると思ったの。
「夕夏、」
視界が歪んで、陽の表情すら分からない。
「もう嫌。自分が嫌っ...」
あの日、優斗はどんな思いで陽に会いに行ったんだろう。
自分が消えると分かってて、それでも私の心配をしてくれて。
怖かったはずなのに。寂しかったはずなのに。
一人で抱え込んでいたの?
「夕夏、自分を責めるな。優斗がわざわざ俺のところまで来て、お前が辛い思いしないように頼んできたくらいなんだぞ?」
「優斗は優しすぎるの...陽もごめん、今日私のせいで学校、サボりになっちゃったっ...」
「いっそ事故にあったのが優斗じゃなくて、私なら...っ」
突然視界が奪われた。
優斗とは違う爽やか系の香りが鼻腔に広がる。
「そんなこと、言うな」
陽の声が、すぐ隣から聞こえる。
鼓動まで感じる。
抱きしめられていることを実感するには十分だった。
「あの日の優斗、夕夏の話してる時に笑ってた。凄く楽しそうだったし、大事な人って言ってた」
「だからそんなこと言ったら、ついに仏の優斗を怒らせることになるぞ。...」
「私、優斗が好き。一番大切な人なの。...大好きなの」
「、うん...そうだよな」
「何であんなに優しいんだろうね。私なんて、自分が寂しいってことばかりで、優斗がどんな気持ちでいるか考えてなかった」
そんな私を、優斗は大事だって言ってくれたの?
「...!夕夏。まだ間に合うかもしれないぞ」
「...え?」
体を離して、陽が私の肩をガシっと掴む。
「前にも言ったろ。俺なら、好きな人のいる世界からギリギリまで離れたくない」
「諦めんな、夕夏。まだ走れる」
夕夏が去った丘の上、聞こえるのは不規則な風の音と、俺の溜息だけ。
「いっちまったなぁ」
”陽、ありがとうっ”
そう言って涙を拭って笑顔を見せた君は、強いし美しいと思った。
”だからそんなこと言ったら、ついに仏の優斗を怒らせることになるぞ”
「...それに、俺も悲しい」
言えなかったな。
俺の入る隙なんて、1mmもない。
ニャァー
ふと視線を逸らすと、野良猫が座ってこっちを見ていた。
「...なんだよ、餌は持ってないぞ」
そう言ってもお構いなしの様子で、ごろーんと横たわって気持ちよさそう。
それを見たら気が抜けて、ちょっと笑えた。
「なぁ猫。俺さ好きな人がいるんだけど、全然振り向いてくれないんだよ」
「それで...さっきあわよくば言いたかったことがあるから、お前が代わりに聞いてくれ」
俺は猫相手に何してんだか。
それでも言葉にしたかったのは、そろそろ俺の気持ちも零れる寸前だったってことだ。
「俺、夕夏のことが好きだよ」
夕夏、頑張れ。