闇の総長はあたらよに運命の姫を求める
 さっきから何度も触れる唇は心地よくて、求められてドキドキする。

 その先はどうなってしまうんだろうって、不安とはまた違った思いが湧いてきたのも事実だった。


「でも、心の準備というか……その……」

「……」


 ためらう私を無言で見つめた櫂人は、静かに腕を離す。

 面倒だとでも思われてしまったのかと不安になったけれど、櫂人はすぐに先程合わせた二枚の貝殻を手に取った。


「……この貝合わせ、何が書かれているか分かるか?」

「え?」


 突然の話題転換についていけなくて不思議そうに瞬きすると、彼は貝殻の内側、絵が描かれている方を見せて説明してくれた。


「達筆すぎて読めないかもしれないが、万葉集にある詠み人知らずの歌らしい」


 絵とは違って美しく書かれていた文字。

 何となく短歌かなと思っていたけれど、万葉集にある歌だったんだ。
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