闇の総長はあたらよに運命の姫を求める
 しばらく飲み込まれそうな波の音を聞きながら歩く。

 ザザァ……と寄せては引く様子が波の音だけで感じられて、本当に海の中に(いざな)われているような感覚がした。

 怖いけれど、引き寄せられる。

 恐怖と奇妙な魅力の溢れた夜の浜辺は、櫂人に似ているのかもしれないと思った。


 吸血鬼で、暴走族の総長で、暗闇の似合う恐ろしいほどに美しい人。

 怖いのに、それ以上に惹かれてしまう。

 どんなに優しく甘くされても、その恐怖は胸の奥にずっと残っている。

 ずっと残って、だからこそ櫂人という人物を知りたくて、追い求める。

 底なし沼にハマったみたいに、抜け出せないくらい溺れているのかもしれないと思った。


 岩場の近くまで来た櫂人は、足を止めてゆっくりと話し出す。


「……恋華、覚えてるか? この岩場で、俺は初めてお前を見つけたんだ」

「あ……ここだったんだ」
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