闇の総長はあたらよに運命の姫を求める
 きっと、必死で痛みもマヒしていたんだと思う。

 私はすぐに立ち上がって、とにかく捕まらない様にと逃げた。

 でも、そうして進んだ先はさっき《あれ》が人を襲っていた場所。

 つきあたりは空のビールケースや段ボールが乱雑に置かれている行き止まりだった。


「っ!」


 逃げ場がないことに顔を歪めて、振り返る。

 《それ》も私が逃げられないことは分かっているんだろう。

 通せんぼするように狭い路地に立ち、私をその赤い目で見つめていた。


 中肉中背の、どこにでもいそうな普通の男性の姿をしている。

 でも髪も黒くてアルビノというわけでもないのに、赤く光る目はかなり異様だ。

 何より、その目は飢えた獣と同じようなものに見える。

 正直、人間とは思えない。

 人の生き血を吸う化け物――まるで吸血鬼だ。
< 60 / 329 >

この作品をシェア

pagetop