初恋の記憶〜専務、そろそろその溺愛をやめてくださいっ!〜
1.
いつかの燃えるような夕陽が空を染めた日だった。
いつものようにひとりで公園のブランコをキイキイ漕いでいると、視界の隅に人影を捉えた。
その人はボロボロの木のベンチに座り、深く首(こうべ)を垂れていた。
『うなだれている』そんな表現がしっくりくる。
「…」
いったい何があったというのだろう。
妙に気になる。
迂闊(うかつ)に大人に近付いてはダメだと普段から口を酸っぱくして言われている。
どうしたものか。そう悩みながらもいつの間にかこの足はうなだれている人のところへと歩を進めていた。
男の人だということは最初から分かっている。
だから余計に危険な筈なのに自分のなかの警鐘(けいしょう)が鳴らないのだ。
この人は大丈夫だと、確信めいたものさえも感じる。
なるべく足音を消して近付いたからか、男の人はわたしの存在に気付かず、一向に顔を上げようとしない。
男の人の正面まできたのはいいが、なんと声をかけていいものやら…。
しかし、今度は口が勝手に言葉を紡いだ。
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