初恋の記憶〜専務、そろそろその溺愛をやめてくださいっ!〜
4.


「専務、今日はどちらへ?」

「桔梗庵(ききょうあん)と言う割烹料理屋だ。ここの茄子の揚げ浸しが絶品でな。君に食べさせたいんだ」

「割烹料理屋に行くのにわたしのこの格好は不味くないですか…?」

「問題ない。店を貸し切ったからな」

「またですか…」

今年の春に新卒で入社して右も左もわからないまま専務の専属の秘書になった。

一応秘書検定は持っているが、何もかもテキスト通りにいかないのが現実だ。

現在も至らないことだらけだが、最初のうちは全てにおいて失敗の連続でトイレに行くたびに泣いていた。

本気で辞めようと退職願を書いたこともあった。

そんな時だった。

専務が仕事終わりに夕飯でも一緒にどうかと声をかけてくれたのだ。

どうせ説教でもされるのだろうと思い断りたかったけれど、説教されたらその場で退職願を渡そうと心に決めてバッグに退職願を忍ばせて付いて行った。
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