初恋の記憶〜専務、そろそろその溺愛をやめてくださいっ!〜
「…あ。昨日泣いてたお兄さん」
「泣いてたは余計」
確かに昨日うなだれて涙を流していたお兄さんだった。
「学校、サボったのか?」
さり気ない動作でお兄さんはわたしの隣のブランコに腰をおろし、こちらの出方を窺(うかが)ってくる。
「…」
「いつもなのか?」
「っ、違う。今日が初めて…」
「そうか」
それだけ言うとお兄さんは空を見上げながらブランコを漕ぎ始めた。
わたしは何だか恥ずかしくて漕がずにチラチラとお兄さんを見ていた。
「お、お兄さんは大学生?それとも社会人?」
「この前まで海外に留学していて卒業してきた帰国子女」
「そうなんだ。…卒業おめでとう御座います」
「ハハッ、ありがとうございます」
気持ち良さそうに全身で風を受けながらお兄さんはニカッと笑って見せた。
「もう就職先は決まっているの?」
「まぁね。じいちゃんの会社にね。…じいちゃんこの間ポックリ逝っちゃったけど」
お兄さんの表情が寂しそうに曇る。