100回生贄として殺されたので101回目の転生では幸福な人生を願って令嬢になったけれど何故か元凶が偏愛してくる
ディオンは自分の胸元からハンカチを取り出しそれを広げる。
「少し休もう」
そう言ってそのハンカチの上に私を座るよう促した。
「どんな夢を見るのか聞いても良いかな」
ディオンの声は優しい。
追求するわけでもいかにも心配ですという圧力もかけてこない。
ただ寄り添ってくれている。
そういう優しさを作り出せる彼を私は尊敬していた。
「楽しい夢じゃ無いし」
「夢見が悪いというのだからそれはわかってる。
夢というのは理由があって見せるとも言われているから、何かそれで回避できることもあるんじゃ無いかと思ってね」
この世界には魔法能力の一つに夢見がある。
夢で先を見通す魔法だが、今は書物に載っているくらいで現実には聞いたことがない。
私の夢見が悪い理由は自覚していない魔法の能力が覚醒していてもおかしくはないだろうが、そうとは違う理由がある気がする。
色々な人生を転生で味わっている以上16歳とは思えない経験で学んだことは多い。
しかしだからといって似たことを回避できることでもない。
それは以前の転生で起きた出来事で、私は結局その運命に抗えずに生贄として殺されたのだから。
だけれどせっかくディオンが話して欲しいと言ってくれる。
段々少し話をしたいと思えてきた。
「殺される夢を見るの」
流石に予想していなかったのかディオンの目が見開く。
「思い出したくなければ言わなくても良いよ。
でも話して楽になることもある。
僕は何を聞かされても構わない。
君が楽になるのが第一だからね」
労るような声に私は頷いた。
「昔私は生贄で、何度も死ぬの。
どれも幸せと感じたことは無かった。
目が覚めて、あぁ夢だった、良かったと思うのだけど、それが鮮明すぎて」
そこで言葉を止めれば、静かに聞いていたディオンが私の膝に置かれた手を包む。
「そんな辛い夢を見続けていればこんなに追い詰められた顔をするのも無理はない」
そんな表情を私はしていたのか。
ハーディス以外では気をつけていたけれど、幼なじみで優しいディオンに気が緩んだのかも知れない。