100回生贄として殺されたので101回目の転生では幸福な人生を願って令嬢になったけれど何故か元凶が偏愛してくる
暗い場所だ。
夜なのかもしれないがそうではないように思える。
どこかの大きな城のようだが真っ暗で、寒々とした長い廊下にはところどころ灯りがついているがとても周囲を照らすほどの灯りではない。
次にどこかに私は移動していて、見えたのは立派な椅子に座っている男の広い背中。
玉座にも思える大きな椅子は白では無く素朴な木の色だが、使い込まれているのか飴色に輝いている。
男が動いて、長い髪がさらりと動く。
気付かれないようそっと柱に隠れて見れば、男はサイドテーブルに片肘を突き、下にある大きな丸い器を眺めていたが、大きなため息をついた。
「これでやっと折り返しか。
今回もこんな無残な終わり方というのに娘の魂は気高い。
もういっそのこと攫ってしまおうか」
「我慢して下さいよ~。
ここまで待ったんですし」
男と、こちらからは見えないが誰かが話している。
何となくどちらの声にも聞き覚えがあるようで思い出せない。
それにしてもあの器が気になる。
中には何が、と柱からのぞき見ようとすると、男がゆっくり顔を動かし、バチッと目が合った。
切れ長の目、高い鼻、艶やかな長い黒髪、なのに大きくはだけた服から見える上半身の筋肉は隆々としていて男のあまりの美しさに息を呑む。
男はくすりと笑って私に向かい人差し指を差し出す。
「我慢しろと言われたのにそちらから来るヤツがあるか。
後々迎えに行ってやるから、その時はじっくりと可愛がってやろう」
自分の足下が揺らいで下を見れば真っ黒い渦が私を飲み込もうとしていた。
男に手を伸ばそうとしたが、最後に見た男の口が何かを言っている。
それが聞き取れ無いまま私は黒の世界に飲み込まれた。