100回生贄として殺されたので101回目の転生では幸福な人生を願って令嬢になったけれど何故か元凶が偏愛してくる
確かに私は何度も殺された。
だけどそれはリアルすぎる夢だと思えば良いのだろうか。
段々ティアナとして生きているのが板に付いてきて薄らいでいるのはわかっている。
それに比べれば今生きている人のカール様のような苦しみの方がきっと重い。
「申し訳ありません、そんな話をさせてしまって」
俯いて言うと名を呼ばれた。
顔を上げれば彼は凜々しい眉を下げて私を見ている。
「俺は回りくどい言い方をすると周囲に注意を受けます。
自分でも直そうと思うのですが上手くいかず。
貴女がそんな苦しい思いをしていたときに側に居られなかった事が不甲斐ない」
「そんな。ただの夢ですし」
「ただの夢だろうと苦しいものは苦しい、辛いものは辛いのです。
優しい貴女にとってその夢はどれだけ苦しかったのだろうかと思うと。
覚えていますか、俺を助けてくれたときのことを」
私は頷く。
「貴女は俺を含め怪我をした者全てにあの美しい魔法で傷を癒やしてくれた。
あれくらいの傷、今まで気にもしなかったのに、貴女は泣きながら痛いでしょう、ごめんなさいと繰り返して治癒してくれました。
あそこにいた兵士達は未だ誇らしげに言っていますよ、可愛らしい天使が助けてくれたのだと」
いつも鋭い目をしているのに、こんな風に優しい目をされるとキュンとする。
カール様は無表情、声も平坦で一見とっつきにくそうだが、照れ屋だし優しいし時々思わぬ甘い攻撃をしてくる。
乙女というのはこういうギャップに弱いのだ。
「私達を守る為に傷を負われたのです。
私には幸い治癒魔法が使えただけで」
「俺はこういう仕事をしているので治癒魔法の世話には何度もなっています。
ですが青魔法であんなに傷を治すなんて初めてでした。
その上心までホッとするような。
さっきまで殺気立っていた自分の気持ちが、凪のように落ち着いた、これは初めての経験だったんです。
あそこで貴女に治癒して貰った者全員が同じ感覚だったようで、おそらく貴女の青魔法はただ傷を治すだけでは無く、心にも作用するのだと俺は思っています。
それはティアナ嬢、貴女の優しさからですよ。
貴女のように魔法で癒やすことは出来ないが、せめて側で貴女を守りたいと俺は思う」
熱い。なんて熱い視線なのか。
そっと大きくて皮膚の硬い手が私の手を包む。
剣を幼い頃からすればこういう手になる。努力の証拠だ。
熱い視線に耐えきれず目を逸らしてしまった。
不味かっただろうかとそろりと視線を戻すと、彼は不思議と柔らかな表情を浮かべていた。
「ディオン殿には出遅れましたが、今後は時間も以前より取れるようになります。
貴女の気持ちが晴れる場所にお連れしますよ」
私はその甘い声に頬が熱くなるのを自覚しながら頷いた。