100回生贄として殺されたので101回目の転生では幸福な人生を願って令嬢になったけれど何故か元凶が偏愛してくる
「何故あんな女を信じる!
もしかしたら我々は幻覚をあの女に見せられているのかも知れない!」
またあの老人が騒ぎ出した。
流石に周囲に居た村人達が老人を捕まえこの場から引き離そうとしている。
さっきから気になるのは村人が土砂崩れの原因を理解していない雰囲気だと言うことだ。
こういう場所にずっといるのなら理由を知っていてもおかしくないはずなのに。
「カール様」
私の声に彼は何でしょうと引き締めた顔で聞き返す。
どうやら私が思う事に気付いているのかも知れない。
「ここの村人は土砂崩れの原因を理解していないように思えるのですが気のせいでしょうか」
彼はちらりとまだ騒ぐ老人とそれを諫める村人達を見て、
「この村は昔湧き水を使い植物を育てそれを売るというのを生業としていました。
ですが村人が増えるにつれそれでは立ちゆかないと木を伐採して売るようになり、こちらの方が収入が高かったため今はそれしかしていません。
あまり同じ場所を切るのは危ないと言ってはいたのですが、現実感が湧かなかったのでしょう。
今回のことで理解すると良いのですが」
カール様は地方視察もしていたところ見るとこういう知識もおありなのだろう。
それで警告していたのにこの有様。
だが助かってしまったことで本来の危険を忘れてしまわないだろうか。
そしてまた同じ事が起きたら間違いなく人が死ぬ。
その時、弱った人々にあの老人の言葉が影響を与えるのが怖かった。
私は何度も経験している。
人の弱さは簡単に狂気へと変貌することを。
「皆さん!」
私は立ち上がってまた声を張り上げる。
「今回の土砂崩れは人災です。
神などが起こした物ではありません!」
「黙れ!女ごときが!」
カール様が私の側に立ち、老人を睨み付ける。
それだけで老人は黙ってしまった。
こういう人間は強い物に弱い。
「木は根を張ります。深く、広く。
それで地面を、土を固定させているのです。
斜めのお皿に食べ物を置けばどうなりますか?
食べ物は滑り落ちます。
今回起きた原因はそういうことです」
村人はじっと私の言葉に耳を傾けている。
とりあえずはこちらを意識してくれることを確認して続ける。