100回生贄として殺されたので101回目の転生では幸福な人生を願って令嬢になったけれど何故か元凶が偏愛してくる
「さっきの男がしたことはどこまでのこと?
ハーディスはこれから村に行かなければいけないのだけど」
ちらりとハーディスを見るとにこりと笑みを浮かべる。
既に何もかもわかっているようだった。
「王子の代わりに言いますと、まずここに押し入った賊はそもそもそういう事実が無かったことになっています。
それは賊が消えたのか、首謀者が考えを変えたのかはわかりません。
次に村の記憶に関しては、土砂崩れはあったが人命はなんとか間逃れた、だが災害は報告され城より人が来る、くらいの認識です。
貴女と彼があの村に行った事実も消えていません。
ただラッキーなことに誰も被害に遭わなかったと言うだけで」
「カール様の記憶は」
「その場で村人を誘導したりしたことになってるでしょうね。
彼の中で貴女がどうなっているのかはさすがにこっちでもわからないので気をつけて下さい」
「結構大雑把にしか改ざんできないのね」
「これでも細かい方ですよ。
そこの王子がやれば一律で改ざんしますが、各自の記憶の齟齬が生じてもみな疑問を抱かないのが便利なだけで」
そこで男は饒舌に語っていた口を真一文字にして表情が止まる。
男が見据える先には隣に居るハーディスが薄らと笑みを浮かべていた。
「いやぁ、王子の能力はほんと凄いっすよね!あはははは」
「いえいえ、私などよりお前の本当の主が凄いというのはわかりますよ」
そんな突き放すような事言わなくても、と男は泣き真似をしている。
ハーディスはため息をついてから私の方を向いた。
「私が村へ行く間、正直ティアナ様と離れるのは辛かったのです。
ですので行かなくなった分、目一杯愛を注がせて頂きますね」
「胸焼けしそうだからいらない」
ぷい、と顔を背けても、きっとハーディスは優しい笑みを浮かべている。
「帰りましょう、屋敷へ」
手が差し出され、私は当然のようにその手を取った。
恐らくもう答えは出ているのかも知れない。
だけれど101回目の転生は、私にとって今までとは違いすぎることに不安を感じていた。