海とキミのオムライス
乗った電車で、車窓を見る前に残額と行き先を確かめた。
冷静にお金の計算をしている、そんな自分が嫌だった。
デートの予定だったから、お財布に余裕はある。
デートの支払いはいつも割り勘だった。払ってもらったことは一度もない。
だけど、それが何だと言うのだ。お互い働いているいい大人なのだから対等で良いじゃないか。
先に社会に出たからと、何ならいつも自分が多めに払っていたことだって、まるで気にならない。

払っておいたよ、なんて言ってもらうこと。
記念日にちょっと可愛いプレゼントを貰うこと。
エスコートされてみたいなんて、少ししか思っていない。

これでいいと思っていた。そう、瀬良くんの望むように。


電車に揺られながら、いくつもの思考が流れては消える。
乗った時には座席が埋まっていた電車も、人がまばらになってきた。
近くの座席に腰かけてうつむく。
(私の、何がいけなかったんだろう・・・・・・)
泣きたい気分だったが、涙は出そうになかった。
喉がつまったように、苦しい。
その時、電車のアナウンスが耳に入ってきた。
駅名が間延びして聞こえず、聞き取れなかったけれど、心に引っかかった。
ふと窓の外を見ると、冬の海が広がっていた。
(わっ、海だ・・・・・・)
少しくすんだ青さに惹かれるように、電車を降りた。
ICカードの残額のことなど、どうでも良くなっていた。
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