そこで笑う君と
奇跡
そうすると、耳を疑うような答えが返ってきた。
「私は、なんで転校してきたと思う?」
聞かれても分からなかった。
なので、
引越し?
と聞いたが違うらしいので、答えを聞いた。
「正解はね。私、転校する前まで入院してたの。目は生まれつき悪くて、耳は生まれた時から全く聞こえなかった。」
私は、息を飲んだ。
なんで、今は普通に喋れてるのだろうとただ直感的に疑問になった。
だけど、辻褄が合う。
足し算ができないこと、マークシートのやり方が分からないこと、他にもたくさん。
入院中、勉強をしてないのであればそうだろう。
「赤ちゃんの時から、いろんな方法とか試したんだけど、治らなくて去年の最初に外国で手術を受けた。それは、命に関わるものだったけど、私は運良く成功した。」
成功して本当に良かったと、胸を撫で下ろした。
「生まれて初めて目が見えた時、眩しくて世界は私には勿体無いぐらい明るくて、自然と涙が出た。そこで、人は文字を使うこと、喋れること、目が見えること、音が聞こえること。それから、毎日ワクワクが止まらなかった。少しして、お母さんがオーケストラにつれて行ってくれた。そこで、サックスをやっていた人があまりにもカッコよくて、見入っていた。」
それを聞いた時、耳が聞こえて、目が見えることは普通じゃないということが嫌でも痛感した。
「お母さんに、やってみる?と言われて、サックスをやり始めた。私は、吹くと音が出て、ボタンみたいなところを押すと音が変わる。楽譜だって、音符が面白い記号に最初は見えて、初めてのことだらけで、楽しくて仕方がなかった。」
春香が好奇心旺盛な理由や、サックスが上手い理由がなんとなくわかった気がした。
あと、、、
急に黙り込んだ。
「私は、またいつ目が見えなくなったり、目が見えなくなったりするか分からないんだ。手術が成功したけど、またあの暗い世界へ引き込まれるかもしれない。だから私は強くいられる。」
私だったら、強くいられるどころか、毎日怯えているだろうに。
どうして、春香は強くいられるのだろう。
私には理解が出来なかった。
「今の幸せには期限があるって事を私は知っている。私はそれを受け入れている。いつ耳が聞こなくなろうと、目が見えなくなろうと後悔しないように生きている。部活は大変だけどこれから先、仲間と笑ったり泣いたり辛さを分けあったりすることは無くなるかもしれない。コンクールの練習でこんなに指を動かしたり、息を切らすまで吹いたりすることはないかもしれない。そう考えると、全てが愛おしく尊く感じてくるんだ。これが、私の生きがいであり、青春だと思う。辛い今でもいつかは終わりがくる。二度と今の時間は来ない。楽しまなきゃ!」
それを聞いたとき、私の何かが変わり始めた。
何か大切なものを私は見落としていた。
彼女と出会い、本当に大事なものに気付かされた気がした。
私の人生の歯車は今、回ったばかりだ。