彩りの日々
「覚えてて。俺はみちのこと、男として好きだから」

またしょうちゃんの顔が近づいてきて、逃げられなくて私は固まる。


ドキドキ高鳴る心臓にまた頭が混乱してしまう。

受け入れるなんて絶対にダメだと思うけれど、前回のキスの時拒絶するような言葉をとった私に傷ついたようなしょうちゃんの顔を思い出して、もうあんな顔をさせるのは嫌だと思った。

どうしていいかわからずに、私はギュッと目を瞑った。








けれど思っていたような感触はなく




「痛ッ!!」

代わりにおでこにバチンと軽い衝撃。

「キスされるかと思った?」

ニヤッとしたしょうちゃんの悪い笑顔。
どこか勝ち誇ったようなそれに、からかわれていたのに勘違いをした自分が恥ずかしくなる。

「な、な、……!?」

わなわなとデコピンを見舞われ痛む自分のおでこを押さえながら震える私に、しょうちゃんは目を細める。

「俺がみちを好きなのは、本気だから。ちゃんと意識しろよ」

おでこを押さえる手を取ってずらされて、今度はその痛むおでこにチュッと唇が落とされた。


「おやすみ」

開き直って小悪魔よろしく翻弄するしょうちゃんに、動揺した私はその場から走って全速力で逃げだした。


誰だ、あの男の子は一体誰だ。

ドッドッドッと心臓が破けそうなくらい脈を打つ。

――ちゃんと意識しろよ

ぐるぐるとしょうちゃんの言葉が頭の中で繰り返される。

年上のくせに情けないとは思いつつも、十も年の離れた弟だと思っていた幼馴染の言葉に翻弄されてしまっている。

これもしょうちゃんの術中にはまってしまったのだろうか。
意識せずにはいられそうもなかった。

なんてことだろう。

私の平凡平穏な人生で、こんなことが起きるだなんて。
些細な彩りどころではない。
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