彩りの日々
「そっか! よかったね! 彼女さんとは付き合い長かったんだし、これからもちゃんと大事にしたほうがいいよ」

下手くそな笑い方で、無理に明るい声を作るみちが見ていて痛々しかったけど、みちは絶対に悟らせまいとしているようだった。

それはみちのプライドでもあるんだろう。


その後も少しとりとめもない話をして、通話は終わった。

通話を終えた後、そのままぼんやりとした虚ろな目でスマホを見つめ続けるみちの横顔を俺は見つめていた。

相当ショックだったろうな、とは思う。
別にみちは兄貴とどうこうなりたいと思っていたわけではないし、彼女がいても平気だと本人は言っていたけど。
それでも好きな人が恋人といるところに遭遇したくはないし、結構ダメージはくるだろう。


――……俺じゃダメ?


そんなチープな三文恋愛ドラマみたいなセリフが口からついて出そうになるくらいには、俺だってみちのことが好きだ。

みちにこんな顔させられるの兄貴だからなんだろうなっていうのも悔しい。

今なら、傷心中の今なら、みちのその傷につけ込むこともできるだろうか。
今なら、押して押して押しまくれば弱っているみちはうっかり俺の告白に頷いたりしないだろうか。

俺は見た目だけなら結構兄貴と似てるみたいだから、「兄貴の代わりでもいいよ」なんて。
言ってみたらみちはどんな顔をするんだろうか。


そんな邪な考えが頭を過ったが、結局はできそうにもなかった。

ただじっと、膝を抱えて、息を殺した。
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