【完全版】妹が吸血鬼の花嫁になりました。
「ははは、これじゃあどっちが姉なのか分からないな」

 一連のやり取りを見ていた津島先輩がからかう様に笑った。


 むぅ。
 そのキラキラした笑顔が何だか恨めしいです、津島先輩。


「でも実際、温泉は良いものですからね。私もたまに利用させて頂いてます」

 運転手の菅野さんが前を向いたままそう話してくれた。

 ミラーに映っている目が優しく細められているのが見える。


「そうですよね」

 自然と笑顔になってしまう様な菅野さんの雰囲気に、私は落ち着きをしっかり取り戻して同意した。


 全く、津島先輩もこれくらい紳士的なら素敵なのに。


 なんて思ったけれど、同年代の男子に菅野さんの様な振る舞いはまず無理だろう。
 菅野さんのこの穏やかな感じは積み重ねてきた経験とかもあるんだろうし。

 そんなやり取りをしているうちに、窓の外の景色が変わってきた。

 道路が広くなり、視界が開けてくる。


 幾つか家やアパートらしき物も見えて来た。

「この辺りは先生とか、デパートで働いてる人が住んでるところだな」

 前を見ながら津島先輩が説明してくれる。


「へー」

 相槌を打ちながら納得した。

 学園があるなら先生やそこで働く用務員さんだっているし、デパートがあるならその従業員もいる。
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