【完全版】妹が吸血鬼の花嫁になりました。
 今日もただのおせっかいだと思ったが、どうやらそれだけじゃないらしい。

「さあ? どうだろうな?」

 律儀に答えてやる義理もない。
 俺は曖昧な返答をした。

 すると鬼塚は探るような視線を俺に向けながら静かに語り出す。

「……最近、数名のH生が吸血されて気を失ってる状態で発見されてる。催眠も掛けられたみたいで、誰にされたのか、同意の上だったのかもわかってない」
「……」

「その中には俺の幼馴染もいるんだ……岸、お前心当たりはないか?」

「……さぁな……知らねぇよ」

 合わせるように静かに返してから、皮肉気に笑った。

「でもよぉ、今日は何だか胸がざわつくんだよなぁ……。こんな日は直接吸血もしたくなるかも知れねぇなぁ?」

 煽るように、挑発するように告げる。

 これで勝手に判断して怒り出してしまえばいいと思った。


 胸がざわつくのは本当で、いくら怠惰な俺でも今日は暴れたい気分だったから。

 なのに、鬼塚は予想に反して納得の表情を浮かべた。


「ああ、そういえば今日は吸血鬼の“花嫁”が到着したらしいな。そのせいでV生がみんなソワソワしてるみたいだ」

 お前もか、と口にした鬼塚は警戒を解きいつものおせっかい野郎に戻る。

 そのことにつまらないと感じながらも、俺は“花嫁”という言葉に納得した。


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