【完全版】妹が吸血鬼の花嫁になりました。
 この岸という人は、本物の人でなしなんじゃないだろうか。


 恐怖と怒りが入り混じる。

 胃の辺りがムカムカした。


「いい加減にしなさいよ! その人から離れて!」

 怖くても、やっぱり弱ってる人がいると助けようと思ってしまうのが私の(さが)なんだろう。
 怒りに任せて叫んでしまっていた。


「っダメ! あなたは逃げ――」
「へぇ、気が強いんだなぁ?」

 女子生徒に向かっていた意識がこちらに移る。

 流石にまずかっただろうか。


 でも叫んだことは後悔していない。
 この岸という男のなぶる様な物言いには本当に腹が立っていたから。


 とは言えここは本当に逃げなきゃまずいだろう。

 女子生徒は心配だけれど、誰か助けを呼んだ方がよさそうな状況だ。


 私は今度こそ即座に判断して(きびす)を返す。

 そして入り口に向かって走――ろうとした。


 でも、足を止めざるを得ない。

 なぜなら岸がドアのところに立っていたから……。


「! どうして⁉」

 驚く私に岸は面白そうに笑う。

「どうしてって、あんたV生の身体能力舐めすぎじゃねぇ?」


 V生……吸血鬼の生徒。

 記憶にあるのは零士が瞬間移動したかのように目の前に来たこと。

 V生は、みんなそういうことが出来るということだ。


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