【完全版】妹が吸血鬼の花嫁になりました。
「助けでも呼ぼうとしたのか? 残念だったなぁ?」

 まるで野兎をいたぶっている狐のようだ。

 そのニヤニヤした顔を殴りつけてやりたい。


 私はせめてもの抵抗として怒りを集めてキッと岸を睨んだ。

「おお怖い怖い。でも、気が強い女も俺は好きだぜぇ? 泣かせたくなる」

 私の抵抗も逆に気に入られてしまい、岸はそのまま掴んでいる腕を引き私を抱きしめるように腕を回す。

 そうして回した腕が、抱えるように頭を掴み倒された。


 首が、露わになる。

「っ!!」


 まずい。
 まずいまずいまずいまずいまずい!!


 (さら)された首に、熱くてねっとりとした息がかかった。

「ああ、この状態でも分かる。極上の香り……味はどんなだろうなぁ?」

 恍惚(こうこつ)とした声が鼓膜に響く。


「ゃ……ぃやだっ……」

 自分の声じゃないような、か細い声が出る。

「ダーイジョーブ、痛いのは最初だけだって」

 味見でもするかのように舌が這う。

 そして……。


「すぐにキモチ良くなる」

 その言葉を最後に、彼の牙が突きたてられた。


「くっああぁぁ!」

 咬まれた痛みに悲鳴が漏れる。

 あまりの痛みに涙が滲んだかと思うと、次の瞬間には痛みより熱が集まってきた。


「うっ……やぁ……な、に……?」

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