【完全版】妹が吸血鬼の花嫁になりました。
 石井君もそう呟いて、ゆっくり私を離してくれた。


 目を合わせて聞いてみる。

「これって、克服したってことかな?」

「そう言ってもいいんじゃないか?……良かったな」

 フッと笑った石井君に、軽く心臓が跳ねた。

 何だか恥ずかしくなった私は、視線を逸らして少し早口でお礼を言う。


「ありがとう。克服するの手伝ってくれて」

 私の感謝の言葉に石井君は「いや」と口にした後、いつになく優し気な口調で呟いた。

「……愛良にも、頼まれたからな」

 見ると、その表情も見たことが無いほど柔らかだ。
 そんな彼の視線はいつも愛良が座っている椅子の辺りに向けられている。


 ……へぇ、そうだったんだ。

 こんな表情を見たらいくら何でも気付く。
 石井君が愛良のことを好きだってことに。


 ……同時に、私自身ちょっとだけガッカリしている事にも気付いてしまった。

 恋――とまではならないけれど、石井君のことをちょっと良いなって思っていたみたい。


 芽吹くどころか、せいぜい眠っていた恋の種が起きてしまったくらいの変化。

 でも、だからこそ嫌な感情を持つこともなく終わる。

 そのことに良かったと思った。

 愛良に変な嫉妬を覚えることもなく、石井君に変に期待することもなく終わったから。


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