【完全版】妹が吸血鬼の花嫁になりました。
 それがまた“先生”というより年の近い男性に見えてしまう。


「それなら逆に大丈夫かもしれないね」

 そして彼は正面から私の背中に腕を回した。


「っ!」


 え? え? え?

 こ、これは私が護衛されているときに抱きかかえられたりしても大丈夫なのか試すための実験だよね?

 な、何でこんなに緊張しちゃうの⁉

 田神先生の腕は、石井君とは何かが違った。

 何というか、何かあった時に早く逃げるために抱きかかえなきゃならない――とかそういう抱き方じゃなくて……。


 例えて言うと、恋人を抱きしめるような……。

 いや、まさかそんなことあるわけないし。


「……やっぱり怖いか?」

 近くで男性らしい低音の声が聞こえてゾワゾワする。

「いっいいえ?」

「だが、緊張してるだろう?」

「そっ、それは別の意味で……」

 そう伝えると、フッと笑うような息遣いが聞こえた。


「じゃあ、力を強めるぞ?」

「は、はい……」


 何か、もうとにかく恥ずかしいんですけど⁉


 背中に回されている腕に力がこめられる。

 私では振りほどけないような力を感じて一瞬息が止まった。

 先生の胸板に私の体が押し付けられて、柑橘系の爽やかな香りが鼻腔をくすぐる。


 閉じ込めるかのような抱擁に、心臓がバクバクと大きな音を鳴らした。


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