【完全版】妹が吸血鬼の花嫁になりました。
 耳元で、熱い吐息が耳をかすめる。

「……聖良」

 呼び捨てにされた名前が、吐息とともに鼓膜を震わせた。


「っっっ⁉」

 ひと際ドクン、と心臓が鳴る。

 そして、わずかに震えが始まった。

「え? あ……」

 そんな、ちゃんと治ったと思ったのに……。


 このままだと、田神先生にダメ出しをされてしまう。

 何とか震えを止めないと。

 でも、思っただけで止められるものじゃない。

 焦りばかりが募る中、先生の手が背中をさすってくれた。


「大丈夫だ聖良。俺はお前に酷いことなんてしない」

 温かくて大きな手に背を撫でられ、優しい声音が耳に直接届く。

 「大丈夫」と繰り返される言葉に、私は落ち着きを取り戻して震えも収まってきた。


 そのことに安堵しつつも、疑問が残る。

 先生、また呼び捨てに……。
 それに俺って言った?

 普段は自分のことを“私”って言ってなかったっけ?


「落ち着いたか?」

「あ、はい……。ありがとうございます」

 そう言葉を交わして後は離れてくれるのだと思ったら、先生はもう一度だけギュッと私を抱きしめた。

「っ⁉」


 驚く私をゆっくり離してくれる。

 離れたことで見えた先生の顔には、困ったような苦笑いが浮かんでいた。


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