【完全版】妹が吸血鬼の花嫁になりました。
 克服したとはいえ、やっぱり本人に対しては恐怖を覚えてしまう。


「あんたが言った通り、その子の腕にある痕が関係してる」

 近くに来た岸は、掴まれている私の手を掴み有香の袖を少しまくる。

 咬み痕とは違って一つだけだけれど、そこにはやっぱりキスマークみたいな痕があった。


「ここからな、俺の血を少し入れたんだ」

「え?」


 有香に、血を入れた?
 何で、そんなことを?


 言葉にも出せずただ驚いていると、岸は私を後ろから抱くようにして続ける。

「っ!」

 体が強張った。


「吸血鬼は人間に少量の血を入れることで、その人間を意のままに操れることが出来るんだよ」

 期間は限定されるけどな、と耳元で囁かれる。

 それは睦言のように鼓膜を震わせるけど、私は拒絶したくて涙が滲む。


 泣きたくなんかない。

 私は怒ってるんだ。

 有香達に……私の友達になんてことしてくれるのよ⁉ って。

 でも、体が恐怖を覚えていた。

 他の人は大丈夫になっても、原因である岸に対しては震えは収まってくれないらしい。

 文句を言いたいのに、この怒りをぶつけたいのに、喉が震えて声が出なかった。


「んん? 何だ聖良、震えてんのかぁ? 可愛いとこあるじゃねぇか」

 そう言って岸は私の耳のふちをなぞるように舐めた。

「っっっ⁉」


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