【完全版】妹が吸血鬼の花嫁になりました。
 っこっのぉ!


「あ、んたにっ! 名前呼ばれるとか、不快でしかないんだけどっ!」

 声が震えようが、弱々しく聞こえようがどうでも良くなった。


 とにかくこの不快感を……嫌悪感を言葉でぶつけてやりたい。

 涙が滲んでいても、怒りを込めて睨みつけてやりたかった。


 でもそんな私の行動は逆効果だったようで……。


 私の腕から有香の手を外した岸は、くるりと正面に回り込み私の腰と顎を固定する。

 すぐ近くに、凶悪なほどに楽し気な岸の顔があった。


「ははっ! 震えてても強がるとか、あんたらしい。いいぜぇ? それでこそ聖良だ。もっと泣かせたらどうなるか、考えただけでゾクゾクする」

「っく!」

 その黒い瞳に映りこみたくなくて、顔を逸らしたいのにしっかり掴まれていて動かせない。

 仕方ないので、代わりに睨みつける。


 岸相手には逆効果だと分かっても、泣き顔は見せたくなかった。


「っく! 聖良先輩から、離れろ!」

 浪岡君の声が聞こえる。

 顔を動かせなくて見えないけれど、浪岡君より大きい男性二人に押さえつけられていたはずだ。

 流石に動くことは出来ないだろう。


「その手をどけろ。お前みたいなのが触れていい人じゃない」

 俊君の、聞いたことが無いような怒りのこもった低い声も聞こえる。

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