【完全版】妹が吸血鬼の花嫁になりました。
 片腕はしっかり掴まれ、頭は固定されている。

 自由なのは腕一本と足くらい。


 ダメもとで蹴りを入れるしかないだろうか。

 そう思ったとき、耳を舐めていた岸の顔が少し離れた。


 自分ではどうしようも出来ない甘い刺激がなくなってホッとする。

 でもそれも束の間。


 離れたことで見えた岸の目には、明らかな熱が(はら)まれていた。


「っな、に……」

「……ヤバイな、コーフンしてきた」

「っ!」


 マズイ!


 本格的に危険を感じた私は、足を上げて思い切り(かかと)で岸の足を踏んづける。

「っく!」

 多少は効き目があったらしい。

 痛みに呻く声と同時に少し腕の力が緩んだ。

 その隙に頭を固定していた腕から何とか逃れる。


 でも、腕を掴んでいる方の手は逆に強まってしまった。

「っ離して!」

 離すわけがないことは分かっていたけれど、叫ばずにはいられない。


 岸から逃げないと。

 愛良を追わないと。


 今のあたしはその二つしか考えられなかった。

 でも、そんな思いだけで男の――吸血鬼の力に(かな)うわけもなく掴まれている腕は外せない。

 むしろ今まで以上に強く腕を引かれて壁に押さえつけられる。


「うっ」

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