【完全版】妹が吸血鬼の花嫁になりました。
 途端嫌味ったらしい笑顔になった岸に、私は悔しくて歯噛みした。


 ついて行く以外の選択肢がなくて、でも愛良のことが気がかりで……。

 頭の中に“花嫁”である愛良がどう扱われるのか、以前田神先生が説明してくれた言葉が次々流れていく。


 監禁されかねないとか。
 子を産む道具にされるとか。

 絶対にさせるわけにはいかないと思えることばかり。


 助けたい。
 助けなきゃ!


 自分の身もどうなるか分からなくて不安だけれど、一番狙われているという愛良がどうなるのかの方が気がかりだった。

 大人しくついてはいくけれど、内心は焦りばかりが募る。


 そうして少し開けた道に出た。

 でも、人の気配は全くなくシン……としている。

 大通りではないとはいえ、流石にここまで人がいないのはおかしいんじゃないだろうか?


 焦りだけじゃなく、不安も増してきた中。

「香月!」

 突然第三者が現れた。


 聞き覚えのある声に振り向くと、それは――。

「どうして……?」

 どうしてこの人が?



 人気のない通りに突然現れたのは、息を切らした忍野君だった。
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