【完全版】妹が吸血鬼の花嫁になりました。
「っ!」

 今まで黙っていたのに、突然いつもの有香の口調で呼ばれた。

 思わず振り返ってしまう。


「聖良、お願い……助けてっ!」

 辛そうな顔で言われて、有香から逃げるのを躊躇ってしまった。

 そのせいで追いつかれる。


 でも助けを求める友達を無下には出来ない。

 それに、今の有香は正気を取り戻している様に見えたから……。


「お願い聖良」

 そうして肩を掴まれて……。


「あたしに、あの人の命令を遂行させて?」

 有香の目が、また焦点の合わないものになる。


「っ!」

 しまった!

「有香、離して!」

 叫んではみるものの、操られている有香が聞き入れることはない。

 肩を掴んでいる力も強くて、なかなか外せそうにない。


「っ香月⁉」

 忍野君の声が聞こえる。

 心配してくれている様な声だったけれど、忍野君は私より自分を心配してほしい。


 案の定、こっちに意識を向けた隙を突かれてお腹に蹴りを受けてしまった。

「ぅぐっは!」

「忍野君!」

 キマッてしまったのか、忍野君はそのままくず折れてしまう。

 大怪我になっていなければ良いけれど……。


 忍野君の心配をする私だったけれど、それこそ自分の心配をしなければならない状況だった。

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