【完全版】妹が吸血鬼の花嫁になりました。
 岸が私の方に歩いてきて、嫌味ったらしい笑顔を向けて言う。

「待たせたなぁ聖良。行こうぜぇ」


 悔しくて腹立たしくて、その顔を(はた)いてやりたいと思った。

 その嫌味な笑顔を歪ませてやりたいって。


 でも、私が何かをする前に岸の目が見開き、驚愕の表情となる。

「え?」

 何があったのかと思うより先に、目の前に黒が舞い降りた。


 サラサラと舞い踊るそれは、私に近付くと肩から有香の腕を外し優しく抱きしめてくれる。

「遅くなってごめん」

 耳元で悔し気に囁かれた声は女性のもの。

 漆黒の美しい友人は、私に安らぎを与えてくれる。


「いいの。来てくれてありがとう、嘉輪」

 友人の名を呼んで、私も抱き返した。


「……“純血の姫”……今回もてめぇが邪魔しに来るとはなぁ……」

 悔しげな岸の声が響く。

 嘉輪は私をかばう様にして岸と相対する。


「ったく、今度こそ聖良を連れて行けると思ったのによぉ……。仕方ねぇ、引き際は見極めねぇとな」

 その言葉で岸が逃げるつもりなんだと理解した。

「また逃がすとでも思ってるの? 逃がさないわよ? もう聖良に近付けさせない様にしないと」

 そして嘉輪は逃がす気なんてサラサラない、と言う。


 フゥーと長めに息を吐いた岸はヒタリと私を見据えた。

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