【完全版】妹が吸血鬼の花嫁になりました。
 私から離れて愛良のところへ向かおうとする嘉輪のことが急に心配になってそう声をかける。

 そんな私に、嘉輪は不安なんて微塵も感じさせない笑顔で答えた。


「大丈夫。私は新年を寿(ことほ)()き日、月輪(げつりん)の夜に生まれた“純血の姫”よ? この満月の夜の日に私に敵う相手なんてそういないわ」

 そう告げた嘉輪はとてもカッコよくて、彼女が男だったら絶対惚れてたなって思った。


 嘉輪は頼もしい笑顔を浮かべると、(わず)かな風だけを残してこの場から消える。



 残された私は嘉輪の笑顔の余韻に浸っていたけれど、少し離れた所からうめき声が聞こえてハッとした。

 そうだ、忍野君!


 操られて今は無表情で突っ立っている有香も心配だったけれど、明らかにケガをしたであろう忍野君の方を先に何とかしなければならないだろう。

 正輝君を連れて忍野君の元へと小走りで向かう。


「忍野君! 大丈夫なの⁉」

 地面にうずくまっていた忍野君は、私達が近付くとゆっくり起きて立ち上がった。


「いててて……」

 お腹を押さえているから、まだ痛みはあるみたいだ。


「ああ、まだ痛いけど多分大丈夫。……吸血鬼って、ケガの治りも早いんだな……」

 少し悲しそうに呟く忍野君。

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