【完全版】妹が吸血鬼の花嫁になりました。
 そんな彼を問い詰めるのは気が引けたけれど、聞かなきゃならないことがたくさんある。

 でも何から聞けばいいのかと迷っていると、正輝君が先に口をはさんできた。

「聖良さん、彼は?」

「あ、前の学校の同級生なんだけど……」


 今の状況で見知らぬ相手を警戒するのは当然だ。

 けれど忍野君は大丈夫だとちゃんと紹介しようとして、途中で言葉が宙をさまよう。


 前の学校の同級生ということは人間であるはずだ。

 実際、私の知る忍野君は人間離れしたところなんてなかったはず。

 でも――。


「前の学校の? でも彼は吸血鬼だよね?」

 吸血鬼がいたなんて話は聞いてなかったけれど、と正輝君は訝しむ。


 そう。
 今の忍野君はどう考えても吸血鬼だった。


「忍野君、どういうことか説明してくれる? どうして突然吸血鬼になったの?」

「それは……」

「あたしが()()なったのは忍野君のせいって言ってたけど、こうなったって何? 忍野君が何かしたの?」

「……ごめん」

 私の質問に忍野君は辛そうに謝るだけで、話してはくれない。

 だから聞き方を変えることにした。


「今は話せない? 後からなら、ちゃんと話してくれる?」

「……ああ。……話さなきゃならないと思うし」

 ずっとうつ向いたままだけれど、忍野君はちゃんと話すと言ってくれた。

 なら、今無理に聞き出すことはしないでおこう。


「分かった」

 私は理解を示し、そして力を抜いて笑顔を向けた。
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