【完全版】妹が吸血鬼の花嫁になりました。
 顔は一応笑顔になっていた。


 でも、その目に宿った悲しみは隠せていない。

 傷つかないで欲しいとは思ったけれど、やっぱり失恋で悲しくならないなんて無理な話だ。

 私は慰めるべきかと少し考えてやめた。


 今私に何か言われたところで失恋の傷は癒えないだろうし、癒すのは私じゃなくて次に石井君が好きになった人の役目だ。

 ちなみに、その役目に私はなる気は無い。


 恋の種を起こしてくれたのは確かに石井君だったけれど、芽生えるほどではなかったから。

 それに、逆に石井君が私を思う様になってしまったらその方が幻滅だ。

 愛良の代わりにされている気分になっちゃいそうだし。


 だから、石井君に関してはただ願うだけ。

 次の恋は、成就してほしいなって。


「……そうか、分かった。じゃあそのように進めていくことにしよう」

 田神先生はそう承知すると、愛良達にも座るように促した。


 愛良達が座ったのを確認すると、田神先生はお別れ会襲撃事件で分かったことを報告してくれる。


 愛良を(さら)って行こうとしたあのシェリー一味は、月原(つきはら)家という赤井家とは何かと対立したがる家の吸血鬼――かも知れない、という事だった。

 あくまで“かも知れない”と言うのは確証がないから。

< 334 / 741 >

この作品をシェア

pagetop