【完全版】妹が吸血鬼の花嫁になりました。
 田神さんならさっさと気持ちをハッキリさせて自分に心置きなく惚れろとでも言うかと思ったのに、彼の反応は真逆だった。


「岸に、会いたい……?」
「はい、そうすればきっといつもチラついて来るあいつの記憶をスパッと切り離せると思うんですよね」

 会いたいと言っても、気持ちの整理をするためにぶん殴ってやりたいだけだとちゃんと伝える。

 なのに、田神さんの表情は晴れない。
 むしろ焦燥に近くなっていく。

「田神さん?」
 どうしてそんな顔をするのか。
 逆に私の方が心配になって彼を呼んだ。

 すると動揺したように揺れていた瞳がスッと私を見る。


「会って、欲しくない」
「え?」
「どうしてだろうな……君に酷いことしかしていない相手なんだから、君があの男を好きになるはずないって思うのに……何故か嫌な予感が止まらない」

 とても真剣な目が真っ直ぐ私を見つめる。
 そしてテーブルの上にあった手をギュッと掴まれた。

「会わせたくない。会わないでくれ」

 その懇願(こんがん)に、私は困惑する。

 会わないでくれと言われても……。


「でも多分、あいつは来ますよ?」

 私への執着を思うと、あいつの方が来ないなんてことだけはないと思う。

 その確信は田神さんにもあったんだろう。
 彼はグッと言葉に詰まって苦い顔をした。

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